エッセイ/紅月 | 連空間デザイン研究所

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0 1 0 紙 の に ほ ひ

いつの頃からか文具が好きでした。
子どもの頃、体が弱かった私はしょっちゅう病院通いをしていました。そのせいか、私は異常なくらい病院嫌いでした。
診察室に入ると体が強直し、「注射しておきましょうか?」の医師のひと言に、フロア中を逃げ回り、看護師さんに押さえつけられれば、その腕に噛みつかんばかりの勢いでした。そういう状況では、恐ろしいほど力が出たのです。
後に、針先から注射液を滴らせ、涼しい顔をして人様に注射針を突き刺すことになろうとは予想だにしなかった頃です。
それはさておき、この頃から母は「注射を我慢したら、帰りにノートを買ってあげる」と、よく言っていました。この責め苦に耐えれば、あそこの文具店の左側の棚の下から二段目に置いてあるノートが買ってもらえる・・・。その一心で、耐え難い恐怖と痛みに耐えた(観念した)記憶があります。

確かにその頃、4、5才の頃に私の文具熱は始まりました。

特に紙製品が好きです。
はがき、便箋、ノート・・・それらは、決してstationeryと横文字で表現するのではなく、あくまでも“文具”と呼び、お気に入りの文庫にしまっておく物です。
そして、日頃からそういった“紙のにほひ”に敏感なせいか、旅先やドライブ先で、素敵な文具に出会います。最近は、純粋な文具屋さんは少なく、caféやギャラリーの一角に、雑貨とともにさりげなく置いてあったりします。
そんな、ふらりと立ち寄った店に、素敵なはがき等を見つけると、ドキドキして思わず顔に近づけてしまいます。和紙と糊が混ぜ合わさったようなにおいに、とても幸せな気分になります。ああ・・・こんなに可愛らしいもので(サイズもお値段も)、こんなに幸せな気分になれるなんて・・・。
気に入ったものは必ず2つずつ求めます。1つは手元に置き、もう1つは大切なあの方へ送るためです。不思議と手に取った時に、このはがきは、この便箋はあの方にぴったり!と、先様のお顔が浮かんでくるのです。

二年前に京都を旅行した時のこと。京都には度々出かけますが、その時はたまたま宿が老舗文具店の近くでした。熊本でも手に入りますが、何より沢山の素敵な文具が置いてあるその場所に行けるのです。宿に着くと、家族を置いてそそくさとお店へ。
そして、私が大の文具好きだと知った馴染みのタクシーの運転手さんが、「そらぁ、記念に開店と同時に入らなあきまへんわぁ・・・」と、翌日は市中を巡る前に、開店前の店に車を横付けされました。そして「シャッターが開く前に立っとかなぁ・・・」と、開店前の店先に立たせられて、なんとまあ一人行列・・・。
結局、宿に着いて一度、夜に一度、翌朝一度と、24時間経たないうちに、3度もその文具店に通ったことになります。楽しい思い出です。

それから最近のお気に入りのお店は阿蘇市の「産庵(うぶあん)」。
初めて訪れたのは昨年のお正月でした。阿蘇神社に初詣に行った帰りにふらりと立ち寄った、阿蘇たかな漬の老舗、志賀食品のカフェandショップです。ショップの一角には、器や文具が置いてあるのですが、好きな奈良の文具店の品をはじめ、センスの良い品揃えに思わず顔がほころびます。
文具を求めた後は、カフェで産米のおむすびをほおばる・・・。ここ二年の文具とお正月がマッチングした幸せなひと時です。

それにしても、はがきは何故このサイズなのか・・・!?
絵でも文字でも、想いを過不足なく書く(描く)ことができる、あの完璧なサイズに感動すら覚えます。
それからノート。最近はオーダーのノートを愛用しています。
表紙、見返し紙、本紙等、色々なデザイン、材質から選ぶことができ、一冊一冊、手仕事で仕立てられます。名入れをすれば、世界に一冊“私だけの美しいノート”のでき上がりです。
最初に筆をおろす時には、自然と居住まいを正してしまう、そんな“大人の文具”とでも言いましょうか。時々、ページを開き顔を近づけると、まだ書かれていないページは冷んやりとした紙のにおいが、既に書かれたページは淡いインクのにおいがします。
その美しいノートにつらつらと日記のようなものを書きながら、書いている事柄も、書いているそこからどんどんと過去になっていくのだと思うと、少し儚いような気持ちになります。しかし、そういうものだからこそ、自分だけの美しいノートに書き連ねる幸せを感じます。

これから先も、文具とのお付き合いは長く続きそうです。
“紙のにほひ”に導かれて、素敵な文具との出会いがあることを願います。



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随筆集随筆集

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ポチ袋
福岡の和紙専門店で求めたもの。ポップな絵柄に古代色がモダンな印象です。

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美しいノート
京都のlleno社のオーダーノート。「ノートは書く人がその思いを綴って初めて完成する」とのコンセプトのもとに、手製本で一点一点仕上げられます。紙の風合いを生かすためにコーティング処理等は行われません。表紙が損傷した場合は年数に関係なくリカバリーサービスが受けられます。名入れは表紙のデザインに合った書体で入れられます。

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大切なあの方へ
鳩居堂の文庫に便箋や一筆箋、のし袋などを詰め合わせ、お年賀として。先様は年若いお嬢さん。可愛らしい文香も添えて贈ります。

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うさぎ柄の桃色の風呂敷に包んで。包みも使って頂けます。